■Magazin 2003/09/22 うたごえ新聞 「伊藤 強の芸能マンスリー」



記事内容

いま、及川恒平作詞、小室等作曲の歌があったら、たいていの人たちは、かってのフォーク全盛
時代の歌だと思うにちがいない。だがそれは違って、この8月21日発売の新曲で、歌っているのは
普天間かおりという歌手なのだ。
普天間は本来はシンガーソングライターで、いま本人の作詞作曲による「髪なんか切ったりしない」
という歌が、じわじわと売れてきているのだという。だが、ここで及川、小室のコンビで、NHKの
「金曜時代劇」の主題歌である。この話はNHK側からレコード会社にきたのだという。
その時に、普天間と名指しがあったという。
面白い組み合わせで、歌としての仕上がりは悪くない。多くの歌手たちがいま、自作にこだわって、
その結果、行き詰まってしまっているケースが多いだけに、このような作品をときにはさむのは、
本人にとっても、いいことには違いない。少なくとも自作にはない別の発想による歌詞、曲のありよ
うが、これから自作をつくるときにも参考になるはずだからである。

作詞、作曲家の存在
また、考えようによっては、いささか古い、及川、小室という、フォーク出身のコンビも、いまの
リズムやビート主体の音楽のなか、際立って響く。ひどくわかりやすいメロディと歌詞でありながら
ある種の人生観を主張するおもむきがある。本人が主体的にかかわったというよりは、はじめに歌
があって、それを歌うことになったことで、普天間にもいささか違和感がありそうだけれど、むしろ、
これからを考えれば、大事な経験になるだろう。いわゆる演歌以外の分野で、ほとんどが
シンガーソングライターであるいま、作詞、作曲家の存在を、もう一度クローズアップするためにも
このような試みは、普段に行われるべきに違いないのである。

伊藤強<音楽評論家>